2021年05月11日
上機嫌なイツキ
「……くだらん。……イツキごときの様子を伺いやがって…。
………どうでもいいことだ。……そもそも、他人には関係が無い……」
黒川がふんと鼻息を付き、愚痴を零した頃には
とうに一ノ宮も作業を終え、事務所を出て行った後だった。
『イツキを気遣え』とは、よく一ノ宮に言われていたが
それを、ほぼ部外者の松田にまで言われては面白いはずも無かった。
『………そうですね。確かに、最近のイツキくんは少し…ナーバスになっているようですね
あなたのものだと仰るのでしたら、きちんと、…心も身体も、ケアしないといけませんね』
一ノ宮の言葉も、気に入らない。
イツキの事は、ココロもカラダも、自分が一番に解っている筈だと
この時はまだ本気で、黒川は思っていた。
「……ああ、おかえりなさい、マサヤ。ふふ。なんか、テレビ見てたら寝そびれちゃった…」
黒川がマンションの部屋に戻ったのは夜中の一時を過ぎた頃だったが
まだ起きていたイツキはリビングのソファに座り、テレビ見ながら、酒を飲んでいた。
「……珍しいな。……白ワインか?」
「ん。甘いの。……マサヤも、飲む?」
「そうだな。貰うか…」
黒川はネクタイを解き、ソファの、イツキの隣りに座る。
イツキは不思議とにこにこと笑い、ボードから空のグラスを取り、黒川にワインを注ぐ。
けれどそれは、グラスの半分ほどにしかならなかった。
……すでにイツキが、それだけ飲んでしまっていたのだった。
イツキは、機嫌が良い訳ではない。
ただの、酔っ払いだった。
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