2021年05月13日
深淵・2
最初はとりあえず軽く。男の名を出せば何か様子が変わるのか。
変わったところでその先、何を聞き出したいのか、黒川本人にも解っていないが。
イツキは酒のグラスに口をつけたまま、こちらも軽く、「ふーん」と
テレビから一瞬視線を寄越し、気の抜けた返事をする。
それで、何?と言う風に小さく首を傾げる。
とぼけているのか、やましさの微塵も感じていないのか。
「……お前、あいつとヤリまくってるようだな…」
「ヤリまくってないよ。2、3回かな…。ご飯、誘ってくれるから……」
「なんだ、……惚れたか? ……あいつの地元に一緒に帰る気か?」
黒川はいつもの調子で、半分馬鹿にしたような口調で、イツキの出方を探る。
煽る様に質問してしまうのは、黒川の癖で、今更どうしようもない。
言葉と、暴力で、イツキをコントロールし、傍に居続けることを以外の選択肢を無くす。
今までずっとそうして来たのだ。他のやり方は、知らない。
「あはは。松田さん、そんな事言ってた?……まあね、それも良いかもねって話しだよ。
……仕事も、何も、まわり全部、忘れて……、のんびりお風呂に行きたいねって話……
……もし、俺が本当にそうしたら、マサヤ、どうする?」
イツキはそう言ってニコリと笑い、逆に、黒川に質問を返してくる。
何か、違う。力加減のようなものが噛み合わない。
イツキは目の前にいるのに、どこか…遠くにいるようで、黒川は少し戸惑う。
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