2021年05月18日
深淵・6
暫くして黒川はふうと溜息をつき、重い腰を上げる。
トイレに行き洗面所で歯を磨き、キッチンで水を一杯飲む。時間稼ぎのように。
そして、もう一度溜息を付き、寝室に向かう。
愚痴を聞くのも不満をなだめるのも好みではないが、まあ仕方が無い。
……このまま他所の男とヤリまくって、孕まれても困る。
そんな事を考える黒川には、まだ、余裕があった。
寝室へ入る。部屋は真っ暗。
淡い常夜灯のスイッチを入れる。
ベッドの毛布は少し膨らんでいる。
おそらくイツキは壁側を向き、身体を丸くしている。
拗ねて、唇を尖らせ、『……マサヤの馬鹿』などと言う。
黒川はベッドに近寄り、毛布を捲る。
けれど中は空っぽ。ただ、毛布が嵩んでいただけだ。
「……ふん」
自分の照れ隠しか鼻で笑い、次は、巣箱の入り口へ。
ウォークインクロゼットの扉を、一応、叩いてみる。
「……もう、いいだろう? いい加減にしろよ、イツキ」
返事はない。
「…お前が誰と遊ぼうが…、別に、文句は言わないだろう?……あとは何が不満なんだよ。
あちこちで…、男を引っ掛けて…、面倒になるのは…、俺の方なんだぜ?」
黒川はそう言って、返事を待たずに、巣箱の扉を開けてみる。
こちらも中は真っ暗だったが、困る程の広さではない。
しゃがみ込んで、足元の毛布を手繰り寄せる。
手繰り寄せ、捲り、掻き分ける。
不審に思い
……黒川は立ち上がり、扉の近くにある照明のスイッチを入れる。
明るく照らされた巣箱の中に、イツキの姿は無かった。
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黒川さんを死ぬほど心配させれば
良いんですよ♪