2021年05月23日
深淵・おわり
以前にもイツキは、黒川の前から姿を消した事がある。
けれど
小野寺との一悶着の時の家出は、理由が解っていたし
クリーニング屋の2階の古アパートにいたのは、まあ、事故のようなものだ。
この夜のように
なんとなく、ただ漠然とした違和感だけを残し
ふいに居なくなられる事が
こんなにも驚くものなのかと、黒川自身が驚く。
得体の知れない不安が、じわりと、黒川ににじり寄る。
イツキがコンビニで買ってきたポカリを飲み干し
ベッドから立ち上がり、黒川は、巣箱を覗く。
中は相変わらず暗かったが
寝室からの光で、毛布の中のイツキが見えて
黒川は安堵する。
「……マサヤ。…しないって…、…言った……」
「…ああ。……寝るだけだ」
「……せま…」
黒川は巣箱に入り、どうしたって狭い、イツキの隣りに身体をねじ込む。
滅茶苦茶に犯し、思うところを洗いざらい吐かせてやろうかとも思ったが
今日はもう疲れたと、黒川はイツキを抱えて目を閉じる。
身体のあちこちに荷物があたる。頭の上には、ハンガーで吊ったコートの裾が掛かっていた。
深い崖の淵にいるのは、イツキでは無かった。
黒川が、イツキという深い闇の淵に立っていたのだった。
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