2021年07月09日
嫌な顔
「…何も聞くなよ、一ノ宮」
翌日。夕方を過ぎて黒川が事務所に顔を出すと
待っていたとばかりに一ノ宮が、黒川に詰め寄る。
すでに平塚会長サイドから、連絡は受けていた。
契約の内容自体に変更は無いが、アレは無いだろうと厭味を言われる。
一ノ宮に説明を求められるのは当然だったが
黒川は面倒臭そうに手の平を見せ、まあまあ、という風にかざす。
勿論、それで引き下る一ノ宮ではない。
「…イツキくんを連れて行かれたのですよね?…で、そのまま、何もなくお帰りになったのですか?」
「あー。メシと酒は良かったぜ。平塚も上機嫌だったし…」
「秘書さんが言うには、車に乗り込む直前でお預けを喰らったと…。その後会長を宥めるのが大変だったと…」
「あー…、まあ、そうだろうな。何か埋め合わせを考えるよ…」
「……社長…」
簡単に説明をし、黒川は軽く笑う。
ともすれば先方を怒らせ、契約自体が後破産になったかも知れない話。
けれど黒川はさほど堪えた様子もなく、少し、寝癖の残る髪をガサリとやる。
小さな欠伸を噛み殺す。疲れているのか……それでも何か、雰囲気が違う。
穏やか、と言うべきか。
「イツキくんと、仲直り、したのですね?」
一番、聞かれたくない事を聞かれ
黒川は、嫌な顔を、一ノ宮に見せた。
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