2021年07月14日

ミカの誓い








仕事が終わって、イツキとミカは夕食がてら近くの居酒屋へ向かう。


ミカは、今日のこの数時間だけで、何か、イツキが変わったような気がしていた。
明るくなったという程。明るくなった訳ではないが…こう、胸の支えが取れた感じ。
数日前まで見せていた、どこか冷めた…物憂い表情も、すっかり消えていた。

悩み事も、それが晴れた理由も、おそらく…イツキの恋人との複雑な関係によるもの。
そう思ってはいたが、なかなかデリケートな問題なだけあり、簡単に聞くことは出来ない。

心の内は、そっとしておいてあげよう。
今はイツキが元気になっただけで十分。
他人がアレコレ詮索し、口出しする事ではない。
静かに見守っていよう、と。それは半ばミカの誓いのようなものだった。







「……で、何?。……カレシさんと何かあったんでしょ?土曜日、帰ってから?
話し合い? 取っ組み合い?……でも仲直りした?
……イツキくん、今日、顔、違うもん。いやん。なんか、幸せそう〜」


ビールを三杯飲む頃には、ミカの誓いもどこかへ消える。




イツキも。
そう、プライベートな事は話すべきではないと思っていた。
ましてや自分と黒川の話など、特殊過ぎて、どう説明すれば良いのか自分でも解らない。

けれど、今日のビールは良く冷えていて、たいそう美味しい。
どこか気も緩んでいるのだろう。

誰かに、…ミカに、愚痴とも惚気ともつかない黒川の話を聞いて欲しかったのかも知れない。






「……なんか、俺ばっかり悩んでたんですけど。相手の、ちょっとした仕草や行動が気になって…
どうして自分がそれを気にするのか、自分でも解らなくて…。
アレコレ悩んで、グルグルして……。

でも、そういうの、俺だけじゃ無いって判って、ちょっと安心できたんです」




イツキはそう言って照れ臭そうにはにかみ、肩を窄めて笑顔を見せた。





posted by 白黒ぼたん at 21:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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