2021年10月27日
ホテル紫苑・2
「……レノンくん。……俺、イツキです…」
バスルームは内側から鍵が掛けられていた。
中からはシャワーを出しっ放しにしているのか水音と、時折、うめき声のようなものが聞こえる。
イツキは扉をノックし、どうにか鍵が開かないだろうかと取手をガチャガチャとやり
「……大丈夫? レノンくん」と、声を掛ける。
「俺が来た時にはまだベッドに寝てて。でも、目ぇ覚ましたら半狂乱でさ。大騒ぎだよ」
「…それだけ、大変な目に遭ったんでしょ…。……怪我とか、無いかな…」
「あー、血の付いたティッシュが丸まってたな。…処女か? アハハハハ」
イツキの隣で佐野が下らない冗談を言う。
イツキは冷ややかな目線で佐野を一瞥し、さらにバスルームの扉を叩く。
「…レノンくん。…とりあえず、出て。身体の状態、見ようよ。このままじゃ、風邪引いちゃうよ…」
「……ざ…けんな…。……クソ……。………ブッ殺す……」
「…もっと、お腹、痛くなっちゃうよ?……レノンくん…」
「こいつ、本当に可愛げ無いんだわー。コトの後的な色気もねーし…」
「佐野っちは黙ってて。向こう行って!」
イツキに叱られ、佐野は「へいへい」と言いながらバスルームを離れる。
冷蔵庫の上のポットに水を入れ、お湯を沸かしておく。
レノンの心配をしていない訳では無いのだが…つい茶化してしまうのは、悪い癖だった。
「……全部、出た?……そしたら、身体、拭こう。ね?」
イツキは足元のカゴからバスタオルとバスローブを出す。
やがて諦めたようにシャワーの水音が止み、カタンの錠の開く音がして、扉が開いた。
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レノン君もイッちゃんに懐いてくれたらいいけど。。
優しいですね
自分とダブらせているのかな…
助けてあげられる事は多々あると思います。
まあ、レノンの出方次第ですけどねー
はるりんさま
自分と同じような事されていたら…そりゃ、心配ですわ。
お腹がきゅーって痛くなっちゃう!