2022年02月25日

スプリングセール









ハーバルの店舗が入る百貨店で、春のセールが始まった。
全館上げての大売り出し。普段、そう忙しくはならないハーバルでも
良い商品が安くなり、人の流れも多くなり、それなりに忙しくなる。

仕事を始めた頃のイツキは右も左も分からず、ただ慌て、ミカに迷惑を掛けることも多かったが
今では手慣れたもので、ちょっと面倒な客でも上手くあしらう事が出来る。
商品の管理なども任され、在庫をチェックするタブレットなども扱えるようになった。

黒川が、ここでのイツキの働きぶりを見れば、おそらく多少は驚くだろう。






「…ごめん、イツキくん。お店終わったあとも、仕事、残ってて……」
「いえ、大丈夫です。ここの、ラッピングまで終わらせて行きます」
「ありがとう」


店舗の営業時間が過ぎても、まだ雑務が残っている。
注文された品物を包み、箱に収め、伝票を用意し……しながら、ミカとここ暫くの出来事を報告しあう。
普段、イツキとミカは交代で店に入っているので、2人で話をする時間は実はそう無いのだ。

先週訪れた焼肉屋の話から、隣の店舗に配属されたイケメンの話。下のパン屋の新商品の話。
ミカが久しぶりにハーバルの本社に顔を出した時の話など。




「……でね、……林田さんから連絡があってね、ヨリを戻さないかって」
「林田さん………………。ああ、林田さん」
「でもね、断ったの。そしたら、『都会で働くと違うんだな』なんて言うのよ、酷くない?」


「そろそろ閉館時間になります。みなさん、作業、終わりますか?」




ホールマネージャーの茗荷谷が、あたりの店舗に声を掛けながら通路を横切る。
別れのワルツの曲もすでに止み、フロアは段々と灯が落とされる。
茗荷谷はハーバルの中を覗き込み、「…時間ですよ」と声を掛ける。
そして、ミカに小さく手を振り、ミカも茗荷谷小さく手を振った。




「…林田さんをお断りしたのは、マネージャーがいるからですか?」
「……んっ?」




ミカは手元の商品に可愛いリボンを掛けながら、ふふふ、と笑った。







posted by 白黒ぼたん at 21:00 | TrackBack(0) | 日記
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