2022年03月04日

思惑・2








訪れたホテルはそう新しくも無いが清潔感があり、何度か利用している。
こんな場所柄なのか、多少の問題は目を瞑ってくれる。
鍵を受け取り、部屋に向かう。狭いエレベーターの籠の中はいつでも
少し、独特な雰囲気があり、二人は黙って階数表示のパネルだけを眺める。


部屋に入ると黒川はイツキの腕を掴み、強めに引きながら歩く。
別に、逃げる相手を手込めにする訳でも無いのだが、そのままベッドへと放る。



「お前と、こんな所に来るのも久しぶりか?……お前は誰かと来ているのかも知れんが…」
「んー。…どうだったかな…。マサヤ、そっちにハンガーあるかな?」



イツキはベッドの縁に座りながら、上着を脱ぐ。
目の前に立つ黒川の背後を指差し、棚からハンガーを取って貰う。



「マサヤも先に脱いだ方がいいよ。皺になるよ」
「………色気も糞も無いな。……『仕事』が無くなって、すっかり鈍ったな」
「もう、そういうの、要らないでしょ、俺」



これから抱かれるというのにイツキは別段構えた様子もなく
上着を脱ぎ、シャツのボタンを外し、一度立ち上がりズボンも脱ぐ。
そういう小慣れた感じが所が気に入らないのだと黒川は少しムッとするが
確かに服に皺が付いたり、細かいボタンを外すのに手間が掛かったりするのは、嫌だ。

備え付けの冷蔵庫から缶ビールを取り、それを飲みながら、黒川も服を脱ぐ。
イツキが「……俺、お水が欲しい」と言ったが、それを聞こえなかったフリをするのは
ただの小さな嫌がらせだった。



「………マサヤ」
「……何だよ」




黒川もベッドに上がりいよいよ始まる、というその間際に、イツキが真面目な顔を向ける。




「ごめん。俺。…………歯、だけ…磨かせて………」





そんな興醒めな事を言って、イツキはベッドから急ぎ下りるのだった。







posted by 白黒ぼたん at 11:07 | TrackBack(0) | 日記
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