2022年03月24日
雨の日・2
取り敢えず一ノ宮はレノンを事務所へと連れていく。
家に送り届けるにしろ、まず、濡れた服をどうにかしてやらないといけない。
「……あいつ、……いるの?」
「………社長ですか?…今はご不在ですよ」
「……あっそ」
駐車場に車を停めて、事務所の階段を上がる。
そう尋ねるレノンは、あまり黒川には会いたくないらしい。
先日、イツキを交え4名で食事をして、少しは印象が変わったのかも知れないが
それでも、自分にこんなに酷い仕事を回す男だ、好意は抱かない。
事務所に入ると一ノ宮は奥の棚に向かいタオルやら何やらを取り出す。
ポットに湯を沸かし、まだ入り口に突っ立ったままのレノンにソファに座るように促す。
「…上着は脱いで。…中まで濡れていませんか?…これ、作業着のジャンパーですが、羽織って下さい。
ドライヤーは無いので、髪の毛はタオルで。…冷えていませんか?」
「…………うん」
レノンはまだ不貞腐れているものの、一ノ宮の言葉には素直に従う。
上着を変え、髪をタオルでごしごしとやり、やはり少し寒いようで身体を少し強ばらせる。
一ノ宮はコーヒーを淹れ、どこぞの届け物らしい高級チョコレートと一緒に、レノンの前に置く。
「……お疲れ様でした。…『仕事』の後だったのでしょう? …佐野くんが迎えに行ったのでは無いですか?」
「……ケンカした」
「…ええ?」
一ノ宮も自分のカップにコーヒーを入れ、ソファのレノンの向かいに座る。
レノンは熱々のマグカップを両手で持ち、唇を尖らせて、啜る。
一ノ宮の穏やかな口調と、胃に落ちる温かい飲み物のお陰で、やっと一息つく。
「……迎えに来たよ。でもあいつ、文句ばっかりでよ。俺と関わると騒ぎが起きるとか社長に怒られるとか。
あんまり五月蝿いから、もう帰れよって言ってやった。
…そしたら、ホントに帰りやがった…」
「おや、まあ!」
「でも、今日は……そんなに身体も痛くないし…駅まで歩いて行けるかなって…
雨も、そんなに降って無かったし……」
posted by 白黒ぼたん at 21:19
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