2022年03月28日
雨の日・3
そんなに降っているように見えなかった雨は、ホテルを出て数メートル歩いただけで
間違いだったのだと気付く。
引き返すのは癪だし、雨が凌げるところまで走って行く…ほどの体力は残っていなかったようだ。
「……佐野くんには後でキツく叱っておきましょう。でも、レノンくんも一人で動いては駄目ですよ?」
「……俺、……一人でもへーき…」
「私共が駄目なんです」
一ノ宮はテーブルの上の菓子の包みを開け、レノンに差し出す。
レノンはそれを大人しく受け取る。
「レノンくん、万が一の時は私に連絡をして下さい。どうにかしますから…」
「……なんでだよ」
「…心配だからですよ。それでなくとも…無理な仕事を強いているのですから」
そう言って一ノ宮は、申し訳ないといった風に少し頭を傾げ、穏やかに微笑む。
その様子にレノンは戸惑う。
今、自分の身に起きている状況と、一ノ宮の柔和な物腰がどうにも擦り合わない。
黒川はいつも、乱暴で横柄だ。その黒川の近くに、こんな人がいることが不思議でならない。
「………あんたさ。……なんで普通の人なのに…、ここにいるの?」
「……え?」
レノンは感じたままを尋ねてみる。語彙力が無いのは、まあ子供だから仕方がない。
話の流れが外れ、一瞬、一ノ宮は何の事だかは解らなかったが、
すぐにレノンの質問の意味を察した。
「ははは。……普通の人…では、ありませんよ」
「でも、あいつなんかより全然普通じゃん。……俺に、親切だし…」
「それが私の仕事ですから…」
一度言葉を区切り、一ノ宮はコーヒーを飲む。
間が開くと、窓を打つ雨の音が室内に響く。
レノンは、一ノ宮の答えにまだ納得が行かないと、覗き込む様な視線で一ノ宮を見ている。
良くも悪くも素直で、思った事がすぐ口に出てしまうのだなと、一ノ宮は思う。
posted by 白黒ぼたん at 20:00
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