2022年04月02日

雨の日・5









「…作戦…と言うか、まあ成り行き上…。
私も以前は社長と同じように、無理な案件を強引に押し通すタイプでしたが…
…色々ありまして…、もう、今は…違うので…」

「色々って?」

「……えーと…」




レノンの質問は続く。
思わせぶりに言葉を濁し『色々あって…』と憂いてみせれば、大体の人間は事情を察し、それ以上聞いてくることはしないのだが…レノンには通じないらしい。
無邪気というか空気を読まないというか。
だからどうした、と被せ気味に一ノ宮の顔を覗き見る。


一ノ宮はゆっくりとコーヒーを啜る。
雨音は静かに、部屋に染みる。








「もう10年以上の前の事です。……ちょっとした、喧嘩がありまして。
私は無茶をし過ぎて命を落としかけて、それを社長に助けて頂いて。

…それ以降、…何ですかね。……頭の打ちどころでも悪かったのか…
どうにも、人並みの感覚というか…感情が……薄くなってしまって…


ですから、表に立ち、人と接し、物事を動かすのは社長にお任せして
私は後ろでサポートをする。そんな形が…落ち着いたようですよ」






一ノ宮が自分の事を話すのは珍しかった。

レノンは、話が解ったのだろうか。

とりあえず「へえー」と軽い相槌を打ち、「それで?」と言わんばかりに身を乗り出した。






posted by 白黒ぼたん at 21:52 | TrackBack(0) | 日記
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/189439539
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック