2022年04月06日

雨の日・最終話










「…いや、マジ、すんません。反省してます。一ノ宮さんが拾ってくれて助かりました」


そう言って佐野は雨に濡れた頭を手で掻きながら、ペコリと頭を下げた。
ちょっとした口喧嘩でレノンを放って帰ったものの、さすがにマズイと途中で思い直し
慌てて引き返し、あちこちを探していたのだ。

タクシーで帰ってくれていれば御の字だが、また何か、別のトラブルに巻き込まれる心配もある。
後で事が露呈し大問題になる前に、佐野は状況を報告するため事務所に寄ったのだ。



「…駄目ですよ、佐野くん。でもまあ、今回は何事もなく良かった」
「……すんません。……ほら、レノン、帰るぞ」



佐野の失態を諌めてはいるが、一ノ宮の言葉は柔らかい。


取り敢えず、今、レノンの2人きりの会話が途切れて良かったと心底思っていた。


あのままでは、質問を止めないレノンを、本気で叱らなければいけない所だった。


レノンは、良いところで水を差されたと不満気だったが、この部屋に入って来た時ほど険しい顔はしていなかった。





「…レノンくんも。佐野くんと上手くやって下さいね。
彼は、口と態度は悪いですが、頼りになる人ですよ」

「…はぁい」



レノンは渋々返事をし、肩に掛けていたタオルをテーブルの上に投げ
借り物のジャンパーをそのまま羽織り、ソファから立ち上がる。
扉の前で佐野は失礼しましたと深々頭をさげ、隣りに来たレノンにも礼をしろと促す。

レノンは顎を突き出すような、軽いお辞儀をする。そして





「……でも一ノ宮さん。俺は、一ノ宮さん、好きだな」





最後にそんな事を言って、レノンは事務所を出て行った。




 
posted by 白黒ぼたん at 23:40 | TrackBack(0) | 日記
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