2022年04月11日

僅かな時間










事務所の扉を閉めて足早に階段を降り
すぐ目の前に停めていた車にレノンを押し込み、自分も乗り
佐野は、それまで息をしていなかったのではないかと言う位
大きな大きなため息を付いて、隣りに座るレノンを見遣る。



「お、お前、一ノ宮さんに何言ってるんだよっ」
「…何って?…別に俺、変な事言ってないだろ?」
「言っただろうが、好きだのなんの。お前、事務所でどんな話し、してたんだよ?」
「あんたには関係ないよ」



佐野は、レノンの、一ノ宮に対する妙に気安い態度に面くらっていた。
佐野にとって一ノ宮はやはり怖い存在だ。
特別何か酷い扱いを受けた訳ではないし、いつも穏やかな笑顔を浮かべてはいるが。

怖い、というよりは、不気味、という方が近い。
金や女に一切の執着も持たず、ただ、黒川の為に働く。
バックに控えて、全ての手筈を完璧に整えて、実行する。

どうして、そう、なのか知りたいと思うことはあっても
聞ける雰囲気も無いし、聞いたところではぐらかされるのは目に見えていた。


その一ノ宮と、この僅かな時間で何を話せば「好き」だの、そんな答えになるのか。
何かが変わったのか。



どこか空気まで柔らかくなったレノンを横目で眺め、佐野は思った。







posted by 白黒ぼたん at 23:52 | TrackBack(0) | 日記
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