2022年04月15日

雨の夕方・2










家は、世間一般で言えば、良い家だった。
病院を経営する父親。教育熱心な母親。跡目を期待される優秀な兄。

一ノ宮も聡明な子供だったが……兄と比較され続け、その割には望まれず。
まして父親は、金と権力にしか興味のない男。母親はその言い成り。

まあ、兄がいるのだからお前はいらないと、雑に扱われた結果、解りやすく拗ねて行った。


もともと運動神経も良い。喧嘩は強く、中学の頃には地元で名の通った存在だった。
隣の学区にも同じように喧嘩に強い男がいて、直接やり合った事は無いが意識はしていた。

噂では、ヤクザの家の子供なのだと言う。

その男と偶然、同じ高校に進学し、これは大きな争いになると周囲は肝を冷やしたが
どこで気が合ったのかいつの間にか連むようになり、それはそれで、周囲は怯えた。


それが、黒川だった。




「……まあ、レノンくんの粗暴さも…あの頃の私たちに比べたら…可愛いものですか…」




ガラス窓の向こうの雨にけぶる通りを眺め、一ノ宮はそう呟く。
昔のことは、まるでこの景色のようだ。ぼんやりと揺れ、ただ遠くに横たわる。





黒川は、自分のように、小さな理由で道を外れた訳ではなく
最初から、外れていた。

ヤクザと家の子と噂があったが、それは少し違っていた。

正確には、極道の大物の愛人の子供で、その母親もすでに亡くなり
本家とは距離を置いているらしく、あちこちを転々とたらい回しにされて来たと

高校の屋上でタバコを吹かしながら、笑って、話していた。








posted by 白黒ぼたん at 00:30 | TrackBack(0) | 日記
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