2022年04月27日

雨の夕方・7








ベッドの脇には椅子に座る黒川がいた。
顔の擦り傷にはテープが貼られ、腕に巻かれた包帯には血が滲んでいた。
一ノ宮が目を覚ました事に気づくと、少し、柔らかな表情になる。
それでも、ふんと鼻で息をし『………馬鹿が…』と悪態をつく。


『…………ざまあねぇな………みっともねぇ……』


一ノ宮が絞り出す声はあり得ないほど弱々しい。実際、生きているのが不思議なほどの怪我だったのだ。
未だ意識も混濁している状態。


『……結局、俺は……何にもなれねぇ…、何やっても……ハンパなままだ。……弱い』

『弱くねぇよ。向こうは8人、瀕死だと。……強いよ』

『……強いのはお前だよ、雅也。……お前は昔からブレないよな。……変わらず、強い。
俺は…ダメだ。……悩んで迷って……、結局……何も…………」




一ノ宮に繋がれていた機器が、ピピピと何かの警告を鳴らす。
すぐに部屋に看護師が来て、その状況をチェックしていた。



『修二。お前は強いよ。悩んで迷って、それでも前に進んで来たんだからな……』



この後また一ノ宮は意識を失い、そのまま二週間ほど眠り続けたのだが、
落ちる意識の中で、確かにその言葉を確かに聞いていた。



それを今の一ノ宮が覚えているのかどうかは解らないが。




何かの、救いになったのかも知れない。





posted by 白黒ぼたん at 23:00 | TrackBack(0) | 日記
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