2022年05月11日

イツキの話・2








『…………しゅっちょう!!!』
『まあ、そんなトコ。本社だけどね。新しい商品の仕入れなんだって』
『……でも、俺?……そんな大切な事なら、ミカさんの方が良いのでは…?』
『なんかね、東京で働く男の子目線が欲しいんだって』



即答で黒川に断られた話を、イツキは順を追って説明する。
新規商品の開拓目的で、ハーバルの本社から呼びが掛かったのだ。
すでに目星を付けている事業所に、所長と一緒に回る、という程度のものだったが
とにかく「出張」という言葉が、イツキには新鮮で輝かしい。



「……お前、『出張』なら、した事があるだろう。…ホテルに、デリヘルで……」
「…………。…………2、3日で帰って来るけど」
「あの女が行けばいいだろうが」
「……今度はメンズ向きの商品を選ぶんだって」

状況は解っているが、黒川は茶化してばかりでまともに取り合おうとしない。
「メンズ向きって、お前のどこに男要素があるんだよ」と、笑ってばかり。

また、下らない軽口ばかり叩いて、イツキを怒らせてしまうのではないかと
少し離れた場所でその話を聞いていた一ノ宮はハラハラしていた。



「………行っちゃ、駄目?」



もう一度訪ねてみる。
拒否される理由も何も無いのだけど、先刻即答した手前、体裁が悪いのか
黒川は返事をしない。

イツキは唇を尖らせ、ふんと鼻で息をする。



「………それじゃあ、俺、断って来る。
保護者の許可が下りませんって。
………マサヤが心配して、寂しがって、俺を外に出してくれないんですって」

「…そうとは言っていないだろう」

「じゃ、良い?」




そのやり取りに
一ノ宮はつい、笑いそうになってしまった。





posted by 白黒ぼたん at 23:53 | TrackBack(0) | 日記
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