2022年06月07日

火曜日の午後








一ノ宮が事務所に行くとそこにはすでに黒川がいた。
ソファに深く腰掛け、テーブルに足を投げ出し、ただ宙を睨んでいた。


「………お疲れさまです。………何か、問題でもありましたか?」
「いや、無い」
「…夜の会合は20時から…ですよね?」
「ああ。……そうだな、早く来すぎたな…」


何もせずにぼんやりと過ごすほど暇な男では無いはずだが、どうにも身が入らない様子。
まさかそれが、年下の情夫が家を留守にしているから…などという理由では無いとは思うが。

でも、まあ、そうなのだろうなと。
一ノ宮は思う。



「……イツキくんは…どうしてますかね。連絡はありましたか?」
「…松田が出たらしいぞ」
「おや、それは……随分と早耳ですね」
「もともと奴のシマだからな、どこかで話が漏れるんだろうよ」




黒川はソファの上の足を組み替え、ひとつ、息をつく。

一ノ宮はそれ以上は話しかける事もなく、デスクに向かい、自分の作業を進める。



……イツキの事を気に掛けている…のは、本人ももう解っているが、かと言ってそれを表に出すのは憚られる。
心配だからと手元におき、首に縄を掛け四六時中見張っている……そんな訳にも行かない。




黒川もおそらく、今までとは違うイツキとの距離感を模索しているのだろうと一ノ宮は思う。




思いながら、つい…、口元が緩み、慌てて咳払いをして誤魔化した。





posted by 白黒ぼたん at 23:07 | TrackBack(0) | 日記
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