2022年06月28日
水曜日の夜・5
グラスの日本酒を一気に飲み干し、イツキは得意の、得意の笑みを浮かべる。
目立たぬ所でハーバルの社長にはササッと手をやり、この場は俺にと目配せする。
「……え、何? お前、飲めるんだったの?」
「だって。……小山さま、注いで下さらなかったから」
上目遣いで少し見つめて、視線を外し、恥じらうように笑み、そのくせ次をとグラスを差し出す。
小山は意外な顔を見せたがそれでも楽しそうで、また、イツキを隣に座らせると、空いたグラスに酒を注ぐ。
ハーバルの社長とは何か仕事の話もしていたかもしれないが、もうどうでも良いという風。
社長も、申し訳ないという様子をイツキに見せながら、その場から離れて行った。
「………小山さまが、女の子がいい、女の子がいいって言うから……
お酒の相手は俺なんかじゃ、……駄目なんだろうなって…思って」
「そりゃ………、いや、まあ、……お前でいいや。飲め、飲め」
小山は勿論ノーマルで、男子のイツキをどうこうする気は無かったのだが………
ニコリと笑う、その気のイツキを前にしては……無意識にでも鼻の下が伸びる。
本人でも気付いていなかった性的な欲求を掻き乱す何かが、こと密やかにイツキから、洩れ出す。
「…うちの社長と、何、話してたんですか?……あんまり苛めちゃ駄目ですよ?」
「……いやいや。戦略的に…ハーバルは……営業利益が低いくせに……外にばっかり出て……」
「…弱いトコ、補って下さるのが…小山さまのトコでしょ?…………ね?」
注がれた酒をきちんと空にして、イツキは今度は、小山のグラスに酒を満たした。
黒川との短い電話のせいで、イツキの、何かのスイッチが入っていた。
posted by 白黒ぼたん at 15:22
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