2022年06月30日

水曜日の夜・6







 
どこまでを意識して、どこを目的としているのか。それとも、何も考えていないのか。





小山の隣りのイツキは足を崩すでもなく、服をはだけるでもなく、シナを作るでも無かったが
指先の動きも目線の遣り方も、いちいちが……小山の気に障った。
……初対面から、男にしては綺麗な顔立ちだ思っていたが、…ただの経験も実力もない若者だ。
適当にあしらい、鼻で笑い、酒でも注がせれば丁度いいと…そう思っていたのだが

急に様子が変わった。小山はいつの間にか、とぷんと、生温い沼に沈んでしまったようだ。
気付いた時にはもう、息すら出来ない。


「………あー、……しかしな、こんな田舎の寿司屋じゃ、大した酒も置いてない……」
「…俺、銘柄とかは良く解らないんです。………すーって飲めるのが好き」
「…辛口の酒も一時流行ったが…俺に言わせりゃ子供の酒だ。………旨味が…」


会話の途中で視線が合い、言葉が詰まる。イツキは微かに微笑み、小山の目の奥を覗き
そうしながら、手元のグラスを口にやり、また空にしてしまう。


「………きっと、美味しいお酒、いっぱいご存じなんでしょうねぇ」
「…ま、まあな。……先月は九州に行って…、ああ、接待で仕方なく呼ばれたんだが、向こうは…」
「……ふふ。まあ、今日のトコは、俺の酒で我慢して下さい」


そう言ってイツキは小山のグラスに酒を注ぐ。
と、と、と……と言いながら、表面が盛り上がるほど注ぎ、「当然、飲みきりますよね?」という目で見つめる。




そんなやりとりを二、三度し、今度は小山がイツキに酒を注ごうとするとイツキは

「…………おれ、………飲み過ぎかも………」

と、とろんとした目をして、小山の手を止めようとする。

当然、小山の手の平に、自分の手を重ね

中指の指の腹だけを、微かに滑らせる。






posted by 白黒ぼたん at 12:24 | TrackBack(0) | 日記
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/189634172
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック