2022年07月12日
水曜日の夜・11
「………松田さんは……、優しいですよね」
「まあね」
タクシーの後部座席に並んで座り、イツキはぽつりと言葉を溢す。
謙遜するでもなく即答するのが、まあ、松田の良いところなのかもしれない。
「……何だかんだで、俺のこと、助けてくれるじゃないですか…。前の、…笠原さんの時も…」
「ああ、あれは凄かったね。イツキくんを助けるナイトのようだったよ、黒川さんが」
冗談めかしてそう言って、松田は笑う。
……自分にチョッカイを出す割には…、困っている時にはきちんと対応してくれる。
黒川ともいつの間にか距離を近付け、仕事も一緒にする仲になっている。
友人、という感じでもないのだが…、不思議な付き合いなのだ。
イツキは推し量るように、松田を伺い見る。
「……何?……俺に惚れた?」
「違います」
「…ははは」
松田は笑う。
途中、身を乗り出し、タクシーの運転手に道を伝えたりする。
街頭の灯りも少ない市道。時折すれ違う対向車。
イツキは地理的なことなどサッパリだったが、一番最初に、ここで暮らしたアパートは
この近くだったろうか……などと思い出す。
「………俺はさ、イツキくんが好きだけど、…黒川さんも好きなんだよね。
二人、見てると、面白くて。ああ、別に悪く言っているんじゃないよ。なんか、こう…
箱推しって言うのかな、ひっくるめて、好きって言うか……
だからイツキくんの事は、フツーに助けてあげたいわけよ」
「…………………松田さん?」
「……あー、でも。それとこれとは、話が別ね」
そんな話をしながら、タクシーが着いた先は
暗がりの景色に悪目立ちする派手なネオンのホテルだった。
posted by 白黒ぼたん at 23:36
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