2022年07月14日

水曜日の真夜中・1









「………ちょっと、…意外。……本当にいいの?イツキくん」
「…………」



田舎町の外れた道路沿いに建つ、少し悪趣味な装飾のラブホテル。
フロントの年配の女性従業員は、男二人の利用客を物珍しそうに眺める。
部屋はいかにもと言った感じ。中央の大きなベッドにはフリルのサテンのカバーが掛り
天井には、ミラーボールに似た照明が吊るされていた。


「………じゃ、止めます?」
「いやいやいやいや」


イツキは上着のジャケットを脱ぎ、ぽすんとベッドに腰掛ける。
松田は備え付けの冷蔵庫を開け、缶ビールを2本取り、ひとつをイツキに手渡す。








ラブホテルの前で停まったタクシーは、二人を降ろし、行ってしまった。
こんな夜中にこんな場所佇んでいても、ホテルに入る以外の選択肢は見つからない。


『…松田さん、……優しいですねって話、したとこだったのに』
『はは。まあ、いいじゃん。……行こ?』

『……マサヤには、内緒にしてくれます?』


松田はイツキの背中に手をやり、押し出すようにホテルの入り口をくぐる。
猛烈に反抗され、腕を掴み引き摺るように中に連れ込む……ことも考えていたが、そんな事もなく、

大人しく従うイツキからは、何か思い悩むような、小さな小さな声が漏れた。






松田はベッドの脇に立ったまま、缶ビールの蓋を開ける。
お互い、一応、乾杯と缶を合わせると、……イツキは一気にそれを飲み干すのだった。





posted by 白黒ぼたん at 14:56 | TrackBack(0) | 日記
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