2022年08月09日

木曜日の昼下がり









「いいじゃん。もう仕事も無いんだろう?
少しぐらいのんびりしなよ。東京には、夜には、帰れるんだしさ」

「………でも、松田さん。……普通の時間にお風呂には…入れないんじゃないですか、その…」

「あー、刺青?それがさ、奥に、時間貸しの小さな風呂が出来てさ、訳ありでも融通きくんだよね。
それに……」




何だかんだと言葉を並べ、松田は風呂屋の駐車場に車を停める。
イツキはまだ怪訝そうな表情で松田を眺めていたのだが……最後の一言


「今、レストランで、仙台直送牛タン祭りやってるんだよ」


に、心が揺れてしまった。








黒川には連絡を入れなかった。
今日の帰りの時間は、最初から知らせていない。多少遅くなったところで確かに問題はない。
ましてや、松田と風呂屋に寄るなどと、話してもまた、揉めるだけだろう。



「……本当はさ、もう少し、イツキくんと話がしたかったんだよね。
昨日は、そんな暇もなかったしね。……実際のところ、黒川さんとは、どうなの?」



フロントで受付をして、新しく出来たという貸切の風呂に向かう。
松田と二人きりの風呂は気恥ずかしいが、それ以上のことを、すでに昨夜済ませているので
まあ、いい。

半露天の設えで浴槽は檜。大浴場ほど大きくはないが
松田とイツキが端と端に入っても、十分、足も伸ばせるほど。
想像以上に気持ちが良く、イツキは、ふうと大きく息をはく。




「どうも、こうも……何も……変わらないですよ…」
「でも、黒川さんが女とヤったぐらいで、イツキくん、大荒れなんでしょ?」
「……俺だって、マサヤだって……、身体の関係なんて……、大した事じゃないって解ってるけど。
……やっぱり、少しは、イライラしますよね……、なんだろう…、なんでかな…」





熱い湯に浸ると、心の奥底の不満が溶け出すようだった。





posted by 白黒ぼたん at 00:17 | TrackBack(0) | 日記
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