2022年08月12日

木曜日の昼下がり・3









「………ヤバい。これ、ヤバくないですか?………やだ」


風呂から上がり、お休み処。待望の仙台直送牛タン祭り。
少々、湯あたり気味のイツキはとりあえず冷えたビールを喉に流し
運ばれて来る料理に感嘆の声を上げる。

運ばれて来る、と言ってもここはセルフ方式の食堂だ。
手元のブザーが鳴るたびに、松田がカウンターまで料理を取りに行く。
松田は背中に派手な刺青を背負い、地元では名の通った極道の男なのだが
イツキの前では、それも形無しだった。



「……喜んでくれるのは嬉しいけど。……イツキくん、東京じゃ、もっと良い物食べてるだろ?」
「お風呂上がりにビールと牛タンなんて、最高じゃないですか。それにこれ、本当に美味しい!」
「ネギ乗っけ焼きね……、とろとろタンシチューもあるよ?」
「………!!」


口一杯に頬張ったまま、イツキは顔を上げ、目をキラキラとさせる。
松田はくすくす笑いながら、すぐにそれを、タッチパネルで注文する。


イツキと食事も、何度かした事があるが……セックスと同じか…うっかりするとそれ以上に楽しい。
美味しそうに食べ、美味しそうに飲む。……イツキの奥の欲のカタマリが、熟れて滴るようだ。

しばらくするとまたブザーが鳴り、松田が料理を取りに行く。
タンシチューと、玉子サラダ。適当なツマミに追加のビール。



「…昨日の寿司屋も、まあまあ美味しいって評判の店だったけど。イツキくん、ほとんど食べてなかっただろ?」
「…食べましたけど……、覚えてないかも……。あの人、本当にイヤだったんです。うちの社長にも嫌味ばっかりで…」
「はは、小山さんね、第一商事の。後でもう一回シめておくよ、俺の女に手ェ出したなって…」
「………それは………違いますけど……」




そんな話をして、ビールを飲んで
イツキは、ある重要な事に気が付いた。







posted by 白黒ぼたん at 23:58 | TrackBack(0) | 日記
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/189747060
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック