2022年08月19日

木曜日の昼下がり・6









イツキは
明らかに動揺しているようだった。
メンチカツを一気に掻き込み、それをビールで流し込む。
新しい通知は無いかとスマホを覗き、ふんと鼻で息を吐き、タブレットに次の注文を入れる。

松田はその様子を可笑そうに見ていた。




何だかんだ言っても、イツキと黒川は、お互い好き合っているのだ。
立場や年齢や性別や、諸々……自分の気持ちに素直になれない要因はあるにせよ
ハタから見ると、すれ違い過ぎていて、なかなか組み合わないパズルを解いているようだ。



「……黒川さんってさ。………面倒臭いでしょ?」
「…まあ。そうですね。………俺に、勝手にしろって言うくせに、勝手にすると怒ってばっかり…」
「じゃあ、もう、別れればいいのに。……俺にすればいいじゃん?」
「…………しませんよ…」


イツキは唇を尖らせて、空になったジョッキを啜る。
松田は笑い、そしてまた注文の品をカウンターまで取りに行き、新しい酒をイツキの前に置く。





特別、怪しい薬を使った訳ではないが

出張の疲れと風呂上がり、妙なテンションでの飲み方のせいで

イツキが酔い潰れるまでに、そう時間は掛からなかった。






「……………べつに、………そんなんじゃ…ないです……」





ふと漏らした自分の声でイツキは目を覚ます。


覚まして…、見慣れない周囲の様子に……、自分が今どうなっているのかと、戸惑う。


微かな振動と独特の匂い。
どうやら、車の後部座席に横になっているようだ。





posted by 白黒ぼたん at 23:26 | TrackBack(0) | 日記
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