2022年08月23日

木曜日の昼下がり・8








黒川は松田の向かい、テーブルに突っ伏したイツキの隣に座る。
タクシーや誰かの運転ではなく、自らが車を飛ばして来たと聞き松田は驚く。


『……そんなに慌てて迎えに来なくても…、俺、何もしないよ?』
『潰れるまで酒を飲ませて、良く言う』
『イツキくんが自分から飲んでたんだよ。イロイロ、疲れちゃったみたいだよ?』


松田はそう言って笑う。黒川は隣のイツキの寝顔を眺める。
慣れない仕事で疲れたのか。……妙な勘ぐりで気を揉んだのか。
………自分が女を抱くことを気にして、いちいち酔い潰れているようでは……
この先が思いやられる。


『イツキくんは面白いね。見ていて、飽きないよ』
『……ただの、馬鹿だ……』
『それが可愛くて仕方がないんでしょ?』


「ああ」と言いそうになるのをどうにか止める。
確かに、電話一本でこんな場所まで迎えに来てしまうのだ。
自分もヤキが回ったものだと、黒川はふんと鼻で笑う。


『……もう、傍に居過ぎて…、良く解らなくなって来たが、な。
いないと、……落ち着かん……』

『そういうの、ちゃんとイツキくんに言ってあげてる?』







まさか、と言うふうに黒川は口の端を吊り上げ

ジョッキに半分ほど残ったイツキの飲み掛けのビールに口を付ける。

一応、運転手だという自覚はあるようで

それはほんの少し、喉を潤す程度だった。





posted by 白黒ぼたん at 22:48 | TrackBack(0) | 日記
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