2022年09月05日

焼き鳥屋









待ち合わせをした店は事務所の近くの、よく利用する焼き鳥屋。
細長い店内の片側にカウンターと、テーブル席が3つ。
先に着いたのは黒川の方で、一番奥のテーブル席に座り、ビールを注文する。
それが席に運ばれた頃、イツキが息せき切って到着し、椅子に座るなりそのビールをぐっと煽る。


「………お前なぁ……」
「ごめんなさい、遅れちゃいそうと思って…走って来て…。
だって酷いんだよ、結局配送のミスだったんだけど…、商品が足りないって…棚に並んでるのまで全部数え直しで…」


イツキは話しながらもビールを喉に流し込む。
黒川は小さく、ふんと鼻を鳴らし、ビールをもう一つと串の盛り合わせを頼む。



それからもイツキは、石鹸屋で起きたちょっとした出来事を黒川に話す。
仕事の愚痴を肴に酒を飲むとは、随分と偉くなったものだなと、黒川は思う。


それでも、ふいにやらかし、松田辺りと絡んでしまうので安心はできないのだが

ハタから見ればイツキも、一端の男。社会人らしくなって来たのか。




「……でね、今の店舗を広げる話も出てるんだけど、そうなるとちょっと大変かなって。
人も時間も足りなくなるし…、でも、俺は今以上には働けないでしょう?」





それは働きたいのか、働きたくないのか。どちらの意味なのだろう。





「すみません、ビール、もう一杯下さい」





イツキが酒を飲むペースが早い時は大概、
答えを出すために考えなければいけないことを、誤魔化すためだった。







posted by 白黒ぼたん at 11:11 | TrackBack(0) | 日記
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