2022年10月17日
仄暗いもの
ある日の夕方。
何かのついでにイツキが事務所に立ち寄ると
そこでは一ノ宮が一人で、作業をしていた。
「……ああ、イツキくん。こんにちわ。……社長ならあと少しでこちらに……」
一ノ宮は仕事の手を止め、イツキに挨拶をするも
イツキはその手元に、目が釘付けになっていた。
一ノ宮はソファに座り、テーブルの上に小型の持ち運び用の金庫を置き
ぎゅうぎゅうに詰め込まれた一万円札を数えていたのだ。
「……うん。……ああ、店で待ち合わせでも良いんだけど……、……すごいね、一ノ宮さん」
「はは、コレですか。あちこちの売り上げがごっちゃになってしまって…」
とりあえず一ノ宮は金庫を閉じ、奥の棚に仕舞い込む。
イツキはそちらをあまり見ないようにしながらも、気になっているのは様子からでも明らかだった。
「金」と言うものにイツキはあまり執着は無かった。
家に多額の負債が出来、それを解決するために身体を切り売りしていた訳だが
こと自分自身の生活全般で、カネに困るような場面は殆ど無かった。
一晩、抱かれて、幾ら。等。
以前、軽い家出をした時には、世の中の世知辛さを味わったが…その程度。
ここに来て急激に、そんな事ばかりを考えるようになったのだ。
「……すごいよね。……稼いでるよね、ここって…」
「まあ、それなりには…。あまり誉められる手段とは言えませんがね」
一ノ宮はそう言って、いつもの穏やかな笑みを浮かべるのだが
イツキの視線の奥に、何か、冷めた仄暗いものを感じるのが、気掛かりだった。
posted by 白黒ぼたん at 12:33
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