2022年11月05日
男の話・9
「………で?」
黒川は黙って男の話を聞いていたのだが、話が途切れたところで、ようやく息をつく。
グラスに口を付けるも、それはとうに空で、氷も溶けたグラスに、ボトルの洋酒を注ぐ。
「………いや、お前のトコの子なのかなって………」
「…名前も何も聞かなかったんだろ? そんなの、解るかよ」
男は少年の姿を見ていないし、名前さえ知らないのだ。
確かに、それでは、素性を探りようもない。
少年の面差しで客引きで、ヤクザの事務所に連れて行かれても平然としていて
脅しすかしも軽く流して、条件を付けては、若い舎弟を手玉にサックリ抜いて…
…そんな人物に思い当たるのは、…そう幾人もいる筈はないのだが
…………解らないものは、解らない。そうとしか、言いようが無い。
「……まあ、そりゃそうだよな。……いや、お前のトコの子なんだったら、その…
厳重注意だな……と。ウチの縄張りで勝手に遊ばれちゃ…困る」
「………確かに、な」
「…お前んトコの子じゃないなら、……探して、スカウトする」
男の言葉に黒川は笑い、「その時には俺にも声を掛けろよ」などと言った。
一通り話が終わり男が帰った後も、黒川は暫く事務所に残り酒を飲んでいた。
男の話に出てきた少年は、イツキなのだろうかと……思いつつ……
そうやって思い当たってしまう時点で、それはビンゴなのだと解っていた。
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posted by 白黒ぼたん at 00:05
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