2022年11月08日

エンドロール







よくよく考えてみると
イツキが石鹸屋の出張から帰ってから、数週間、イツキと会話らしい会話は無かった。
留守中、お互い、多少後ろめたい出来事があったからだろうか。
…避けている、程、露骨では無いが、
…まあ、実際仕事が忙しく時間が合わなかったこともあるのだが。

黒川が起きる頃にはイツキは出かけているし
黒川が帰る頃には、イツキは巣箱で休んでいる。
たまにキッチンで顔を合わせると、特に問題も無さそうに微笑み
『お鍋に煮物、作ってあるよ』など、言う。
そんな事ぐらいで、関係は良好なのだと思い込んでしまうのもアレだが

わざわざ面倒臭い問題を掘り起こす必要もないと、違和感を誤魔化してきた。




まあ、この二人の問題は
正面切って話し合ったからと言って
上手く解決される保証はないし
どの形に落ち着けば正解なのかも解らない。



成り行きで良いのではないかと黒川が思うのは、年の功というやつで
まだ若いイツキにはそれ自体が不安の種であることに、黒川は気付かない。






真夜中。
事務所で一人酒をしていた黒川は、やや悪酔状態で部屋に帰る。
珍しく部屋は明るく、リビングではイツキが、テレビを見ていた。


「…あ、おかえりなさい。マサヤ」
「………めずらしいな、この時間まで起きているのも……」
「なんか、寝付けなくて。テレビ付けたら、映画、やってて……」



その映画も丁度見終わったところで。
画面にはエンドロールが流れていた。





posted by 白黒ぼたん at 16:48 | TrackBack(0) | 日記
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