2022年11月14日

イツキの話








イツキの髪の毛を指先に絡めたまま、黒川の手が止まる。
自分を好きだと言うイツキの顔を見てやろうと思ったが、イツキは顔を上げない。


「……好きなら、なんで別れるんだよ」

「……だから、解ってないって言うんだよ、……マサヤは」


そう言って、お互い少し黙りこくる。
もっとも、触っていた髪の毛を掴んで引き倒し、
『…ふざけた事を言うな』と激昂しないだけ、マシだった。
黒川も多少は人の話を聞くようになったのか、ただ単純に酒に酔っている為なのか。

イツキは黒川に背を向けたまま、テーブルのグラスに手を伸ばす。

今度はイツキが酒の力を借りたいのだろうか、それを飲み干すと、ふうと一息付いた。





「………別れる、なんて言ってないでしょ?
マサヤのこと、好きだから、ちょっと…離れたいなって…思っただけ。

一緒に暮らしてるとさ、色々、知りたくないことまで知っちゃうでしょ?
女の人と何したとか、どうしたとか、別に、いいんだけどさ…マサヤも仕事だしさ。
今更、ヤルとかヤラレルとかそんなの、大した問題でもないの、知ってるけど。

でも、そんな事に、いちいち気がついて、気になって、嫌な気分になる自分が、嫌。

俺……


なんでこんなに、マサヤのこと、好きになっちゃったんだろ……
オカシイでしょ? ずっとマサヤの事、考えてるなんてさ。気持ち悪いでしょ?」





そこまで話して、ようやく首を傾げ、イツキは小さく黒川を見上げる。

少し泣いている様にも見えるが、キッと口の端を結ぶと、微笑んでいるようにも見えた。





posted by 白黒ぼたん at 19:56 | TrackBack(0) | 日記
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