2022年11月24日

憑き物








「イツキくん、こことか、ど?
駅から徒歩25分の築30年だけどギリギリ予算内。
近くにコンビニもあるんだって。それ、重要だよねぇ」



仕事の合間にミカが不動産のチラシを広げる。
少し前から、イツキが今の部屋を出たいと知り、あれこれ気にしていたようだ。
本当は自分ももう少し、良い条件の物件があればと探している。
話の流れで言った、イツキと一緒に暮らす、も、あながち冗談では無いのだろう。


イツキは一応チラシを眺め、……この条件でもやはりこの家賃なのだなと、思い
手に持っていた紙コップの温かいコーヒーを啜り、目の前のミカに、ニコリと微笑む。



「………ありがとうございます。…でも、俺、なんか……、別に良くなっちゃったかも…」
「ええ?イツキくん、自立計画はどうしちゃったのよ?」
「…色々考えてたんですけど…、やっぱり大変だし。……もう、いいかなって」


ミカはイツキの言葉に目を丸くする。
確かに、つい数日前までは思い悩んだ顔をし、溜め息ばかり付いていたイツキだったが
今日はまるで憑き物でも落ちたように、晴れ晴れとした笑顔を浮かべている。



「…俺、考え過ぎちゃうんですよね。何でも、ぐるぐる……
それで、もう、この場所には居たく無いって、そればっかり考えちゃったんだけど

何か、………落ち着きました。……すとん、て」

「そうなのー?」

「多分、自分が思う以上に、イロイロ、………悪くはないのかなって……」





そう言って笑うイツキに、ミカは、それなら良いけどと安堵する一方


楽しいイベントが終わってしまったような気もして、少し、ガッカリするのだった。





posted by 白黒ぼたん at 15:06 | TrackBack(0) | 日記
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