2023年05月08日

三杯目









「イツキてんちょ、次、どうする?
俺、焼酎のボトルがあるからそっちにするけど…一緒に飲む?」

「じゃ、一緒に。…あ、でも俺、すごく薄く、でお願いします」

「薄くね、了解。梅干し入れるよ?



薄めの水割り、その通り叶えられた話は聞いた事がない。
三浦はテーブルに運ばれたマイボトルと、氷、水のセットを前に
楽しげに微笑みながら、イツキのグラスを作っていた。 



「……あー、あの店はさ、親の名義でさ…
2年前に親父がガンで死んで…おふくろもすぐに死んじゃって…で、
何となく、手放せないでいるんだよね……。
商売する気は無いんだけどさ、親父たちの馴染みのお客さんとかが来てくれると思うと…
なんとなくね……」


そんな話を、三浦はグラスの氷をカランと鳴らしながらする。
聞けば案外、いいとこの坊ちゃん風。両親は他界したものの、あちこちに資産を残しており
基本、生活には困らないようだ。

少し、寂しげな
憂のある顔をされると、
イツキもつい、ほだされてしまう。



「…じゃあ、もっと、お店、大事にすると良いですよ。来てくれる人、いるんですから…」
「んー、でも俺、仕事すんの、好きじゃないんだよねぇ…」



しんみりとしたかと思えば、三浦はハハハと軽く笑い、店主に追加のツマミと氷を頼んだりする。
イツキはマドラーで、グラスの底の梅干しをカツカツ崩しながら、

この男に言葉は通じているのだろうかと、少し不安になる。



「…三浦さんがいなかった時、変な人が来ましたよ?
……ヤクザっぽい人。……三浦さんのこと、探してましたよ?」



イツキは自分のグラスを空にして、ついに本題に切り込んでみる。



三浦は



一瞬、息を飲み、そうしながらも、イツキの新しいグラスを作る。






posted by 白黒ぼたん at 11:58 | TrackBack(0) | 日記
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