2023年05月13日
五杯目
もとより狭い店。テーブルも小さ目。
向かい合い互いに身を乗り出すと、思いのほか顔が近寄ってしまう。
そんな時、普通に知り合いや友達同士なら「近い近い」と笑い
距離を取る、ただそれだけの事なのに
ぐっと身を乗り出した三浦は、同じように身を乗り出したイツキと
前髪が触れるほどの近さになり、そのまま
イツキの視線に捕まってしまった。
「……関係、ないなら…いいんですけど。いちお、心配…してるんです」
イツキは視線を絡めながらそう呟き、ふうと、ため息を漏らす。
まともに取り合ってくれない事が淋しいといった風に一度、目を伏せる。
両手に持ったままのグラスを、くるんと回す。氷がカランと鳴る。
そして、緞帳のようにゆっくりとまぶたが上ると、長いまつ毛の奥の瞳が
ふたたび三浦を捕える。
三浦の背筋にぞくりと虫唾が走る。その感覚はまだ、欲情ではなく
何か、解らないものに触れた時の好奇心や…恐怖感に似ていた。
「…三浦さん…」
「…え、…なに、イツキてんちょ……」
「…おれ、グラス空なんですけど…どうしたらいいと思います?」
「あっ、ごめん。すぐ…、あっ…氷、氷…ない…」
思わず三浦の声は裏返る。
ボトルを手に取り、空のグラスを引き寄せ、アイスペールの中を覗き込み、慌てる。
店主に氷を貰おうと立ち上がり、勢い、テーブルの角に足をぶつけ、派手な音を立てた。
丁度その時、入り口の引き戸が開き、1人の客が中に入って来た。
posted by 白黒ぼたん at 00:36
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