2023年05月16日
入ってきた男
ふらりと入って来た男はそのまま入り口近くのカウンター席に座る。
イツキは入り口に背を向けて座っていたので、気付いていないようだが
三浦は、なんとなく目に付いて、動きを追ってしまった。
見掛けない顔。
気のせいだろうか、こちらの様子を伺っているようだ。
「……三浦さん?」
「ん?あ、ああ。……ね、イツキてんちょ、店、変えようか?」
何か後ろ暗いところがあるのだろうか。
椅子に座り直した三浦は目立たないようにと背を丸くし
イツキの方に身を乗り出し、耳元で小さな声で囁く。
単純に、店を出たかっただけなのだが
これではまるで意中の相手を次に誘っているようだと、三浦自身がはっとする。
空のグラスに口を付けたままのイツキは目線だけを上にあげ、三浦を見る。
「…次、は、どこに行くんですか?」
「…え、いや。飲み直しても良いし……、なんか、別の……」
「……別の?」
「………別の……」
別の何があるのだろうと、またまた三浦は自分の言葉にはっとする。
この子と話をしていると、どうも流れがおかしくなると…気付いた時にはすでに遅い。
「いや。まあ…、とにかく、一回、出ようか……」
半ば慌てて三浦はそう言い、席を立ち、会計を済ませる。
イツキも立ち上がり、歩き出す、千鳥足という訳ではないが、どこか覚束無い。
ふわりとよろけそうになったイツキの腕を取ったのは
カウンターに座っていた、新しい客だった。
posted by 白黒ぼたん at 18:56
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