2023年05月25日

追憶









イツキがマンションの部屋に帰って来た時、まだ黒川は仕事から帰っていなかった。
とりあえずイツキは風呂場に向かい、今日一日のアレコレを全て洗い流す。
すでに酒は抜けていたが、微かに頭が痛い。何か、変な飲み方をしたかと
反省しかけたのだが……、止めて、ハーバルの石鹸で顔を洗った。



結局、佐野とは、何も無かったが



帰りの車内で、ずっと、愚痴と言うか嫌味と言うか…恨みがましい事や
もしくは、本当に好きなんだぜ……などという言葉を聞いていた。

イツキも佐野は、嫌いな訳でなはい。
けれどだからといって、気楽に行為に及ぶ訳にもいかない。

お互い、昔の、一緒にいた時間の記憶が胸の奥底でチラチラと瞬く。
満ち足りて幸福、とは違うが。それでも確かに、互いを必要として、満ちていた。

指先の感触も汗の匂いも、まだ、鮮明に思い出せる。
それだけで十分に、身体が疼く。

  







イツキは風呂から上がり、台所に向かい、冷蔵庫の中からパックの牛乳と取り
そのまま立ったままラッパ飲みをする。

『………本当にしたいんだったら…、グダグダ言ってないで、…来ればいいのに。
変なとこで遠慮する……、佐野っち…の……、ばか」

口元を手の甲で拭いながら、そう呟くイツキは
やはり、まだ、少し酔いが残っているようだった。









posted by 白黒ぼたん at 23:16 | TrackBack(0) | 日記
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