2023年11月07日

休暇・8









狭い湯船の中でイツキは黒川の腕に身体を預ける。
コポコポとお湯の溢れる音だけが響く静かな空間。
周りを囲う植栽の合間から街明かりが見えなければ、本当に
どこか遠くの、誰もいない星にでも来たようだ。


「……ああ、マサヤ……」


何か言い掛けて、イツキは口を噤む。
三浦のことや、ハーバルの店のこと。…松田に連絡をしようか、などなど
話しておきたい事はアレコレあったのだが、どうしても今という話ではない。
下手に他の男の話をして、また喧嘩腰になるのは嫌だった。


「……なんだ?」
「ん。……いいお湯だなって思って…」
「そうだな」


口数が少ないのは、黒川も同じ思いだったからなのかも知れない。








長めの風呂から出ると、イツキは急激に疲れた出たようで
髪の毛も乾かさず、ベッドの上に四肢を放り投げる。
黒川がミネラルウォータのボトルを持ってベッドに来たころには
すでに寝息を立ている様子だった。


「……馬鹿なやつ……」


と言うのは、黒川の口癖なので大した意味はない。
黒川はボトルの水を半分飲んで、ふふ、と小さく笑って
イツキの濡れた髪の毛に、




posted by 白黒ぼたん at 22:43 | TrackBack(0) | 日記
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