2024年02月04日

帰り際の









食事も済み、ボトルのワインも飲み干し、イツキとミツオは店を出る。
少し酔っているのか躓きそうになるイツキの、腕を、ミツオが支える。

「…こういうさ、2階のお店って、酒飲むと階段が怖いよね」
「…俺、そんなに酔っ払って無いですよ…」
「……そ?」

言いながら、絡めた腕でそのまま壁に押し当てて、唇を重ねる流れが実にスマートで
何の不自然もないような気がする。

生温かい舌が唇を割り、中で絡み、湿った吐息を漏らし
それでいてすんなり離れて行き、思わず、声が出てしまう。



「じゃあ、このまま帰る、なんて、言わないよね?」
「……んー…」


はい、とも、いいえ、とも言わず、イツキは曖昧に笑って、階段を降り始める。


実は、ミツオの美容室からほど近いこの場所は、黒川の事務所の目と鼻の先だった。


別に見られている訳でもないのだが、なんとなく、気になるのも事実で


今更そんな事を気にしている俺も馬鹿だなと、イツキは胸の奥で少し呆れた。





「……ミツオさん」





階段を降り切り開けた通りに出たところで、イツキは一度立ち止まる。
そして、くるりと振り返り、半歩後ろにいたミツオに抱き付いた。


それは、急にミツオに甘えたくなった訳では、勿論、無く


通りに、見たくない人影を、見つけてしまったからだった。







posted by 白黒ぼたん at 00:20 | TrackBack(0) | 日記
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