2024年02月13日

玄関先








以前から黒川の周りには、商売上の付き合いのある女性や男性の姿がチラついていた。
こういった稼業なのだから、ある程度は仕方が無いだろう。
イツキのような「商売道具」にするといって訳アリの子供を引き入れ
その教育という名目で、何かをしていることも解っている。

そんな相手をイチイチ気にして、腹を立てたところで仕方がない。
嫉妬と言われても、癪なだけだ。自分には関わりないことと、放っておけばいい。






「…マサヤ、あれ、誰? 今日、見ちゃった。一緒に歩いてるとこ。
まだ若い子だよね? 男の子? あの子さ、ちょっと前に事務所の近くでも見たよ。
…最近、事務所で何やってるの? その子と、遊んでるの?
だから、俺に、事務所に来るなって行ったの? 仕事が忙しいなんて、嘘じゃん?」



放っておこうと思っていたのに。
どうぞご自由に、と、余裕の素振りを見せようと思ったのに。

真夜中を過ぎて部屋に戻って来た黒川を見るなり、言葉が、口を突いて出てしまった。
待っている間にワインのボトルを一本空けてしまったせいかも知れない。



「…何を言っているんだ、お前…」
「……誰なの?」


玄関先で、
仁王立ちになるイツキに捲し立てられ、黒川は少し面食らったようだったが
身に覚えがある事なのか、言葉を濁す。



「……解るだろう?……「商品」だ。……別に珍しい事でもない」
「…そうだけど…、それにしてはマサヤ、最近、…楽しそうにしてる」
「まあ、なかなかの素材だからな。……ああ、いや、仕事としてな…」



黒川の返事に納得の行かないイツキは頬を膨らませ、不機嫌顔を見せる。
黒川はイツキの頭を軽くポンポンと叩き「…まあ、気にするな」と言う。



「…仕事だ。それ以上の事は無い。…そう、勘繰るなよ…」
「……マサヤが新しい子を連れて来ると、俺…、…替わりになっちゃうのかなって…ちょっと思う」
「馬鹿な奴だな。そんな筈は無いだろう。お前は………、別だ」




そこまで言わせて、ようやくイツキに笑顔が戻り

黒川は、玄関から部屋に上がることを許された。








posted by 白黒ぼたん at 23:16 | TrackBack(0) | 日記
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