2025年05月22日

焼肉・8







締めのデザートにと運ばれた杏仁豆腐の皿を持ち
2、3度スプーンに掬っては口に運ぶ。
真面目な話をしている最中なのに、甘いものに、ついニコリと笑ってしまう。
イツキのこんな表情が見ていて飽きない所なのだなと、一ノ宮は思う。


「…困ってるんだよ。俺だって。
マサヤが、……昔に比べればビックリするほど優しいのは解ってるんだけど…それで十分、良いのも解ってるんだけど……、たまにすごく、不安になる。
昔みたいに酷い事ばっかりなら、考える時間も無かったけど、今は、あって……それが、困る」



漠然としたイツキの不安。
黒川との関係や、自分の未来や、欲求不満や、そんなものがすべてごちゃ混ぜになっているようだ。

俯き、まつ毛の影が頬に落ちる。
もっともその寂し気な顔は、杏仁豆腐の皿がカラになってしまったせいかも知れないが。



「…馬鹿か、お前は。要するに暇なだけだろう」
「……そうだよ。…だから、俺に何が出来るのかなって…考えてるんだよ…」
「石鹸屋でも電話番でも、何でも好きにすればいいだろう」

「…ああ、そろそろ…閉店時間のようですね……」




堂々巡りの会話に、若干黒川が声を荒げ
それを遮るように、一ノ宮が声を掛ける。


それでも



黒川はふうと一つ息を吐く。
そして、自分のデザートの皿をイツキの目の前に置いてやる。




「……良いんじゃないのか…、ヒマな時間でゆっくり考えろよ。焦る事はない。
適当に遊ぶのもいい。いくらヤっても、妊娠もしないからな、ハハ、……ああ、いや

適当な相手は駄目だ。俺の知っている相手にしろ。危険が無いとも言えんだろう…

一応、これでも心配はしているんだぞ。……お前は、馬鹿だからな……」




良い事を言ったのか、悪い事を言ったのか、良く解らない事を黒川は言い
とうに空になっていた酒のグラスを煽って、少し、照れ臭そうな顔をした。





posted by 白黒ぼたん at 00:18 | TrackBack(0) | 日記
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