2025年12月30日

小さな部屋で








その日もイツキは良く働き、ホテルに戻ったのは20時を過ぎた頃。
フロントで鍵を受け取ると、受付に、客が待っていると告げられる。
促されるままロビーの隅のソファの人影に目をやる。
見覚えのある背格好に名前を呼ぼうと一度口を開きかけて、いや、違うと口を閉じて

また、口を開いては……上手く声が出ないことに自分でも驚いてしまった。


「…ま………。…マサヤ、だ」
「…お前、ケータイぐらい見ろよ。何度か電話したぞ」
「あ、…うん。えっと……うん」


ロクな会話もできないまま、とにかく部屋へと向かう。
イツキの手にはコンビニのビニール袋があって、それを見て黒川は笑う。


「…夕飯か?しょぼくれたサラリーマンみたいだな」
「うん。あ、マサヤの分も買えば良かった?…何も無いよ?」
「いらないよ」


部屋の鍵を開け、中に入り、小さなテーブルの上にそのビニール袋を置く。
シングルの小さな部屋。シングルの小さなベッド。
飾り気のないシンプルな内装が、少し、物悲しく感じる。



「…びっくりした。ああ、ごめん、ケータイ、カバンの中だった。
…ずっと、待ってた?……マサヤ?」

「ああ」





そう言って、黒川は、ただイツキの身体を強く抱き締めた。




久しぶりの逢瀬に、本当は話すことも聞くことも沢山あったはずなのだけど
そんな落ち着いた感情になるには、時間も何も足りないようだ。






posted by 白黒ぼたん at 23:42 | TrackBack(0) | 日記
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