2009年03月04日

…初恋!?


すべての撮影が終わった時には、イツキはまるで汚れた雑巾みたいになって、床の上に放り出されていた。
はあはあと短く吐き出される息と、小さく揺れる肩で、なんとか生きているのが確認出来た。

「村田。コイツ、綺麗にして…今日はホテルにでも連れて行ってやれ」
「…うっす」

手早く、機材と玩具を片付けて、今日のデータをそのまま社長に渡す。
編集やらチェックやらは社長の仕事だけど、今日の映像が商品になるのかは俺の知ったことじゃない。
イツキは、ふつーの女優じゃないらしい。
ヤクザの情婦を譲り受けたって聞いたけど、それもどこまで本当の話しなんだか。
社長はイツキを見下ろして、意味ありげにニヤリと笑って、部屋から出て行った。



「…イツキ、立てるか?」

俺はイツキの傍にしゃがみ込んで、頬っぺたをぺちぺち叩いて、朦朧としたイツキを呼ぶ。

「ここでシャワー浴びて行くか?それとも、出てすぐんトコにラブホがあるから、そっちでゆっくりするか?」

イツキは薄く目を開けて、ゆっくりと身体を起こしてきた。。
バスタオルを肩に掛けてやると、その端をきゅっと胸の前で握って、今更、胸を隠す仕草をする。
何の液体で濡れたんだか、髪の毛が顔に張り付いてて、それを邪魔そうに掻き上げたりする。
潤んだ瞳をしばたたせて、色を取り戻した唇をきゅっと結んで、不満げに(そりゃ不満だろうよ…)頬を膨らませたりしていた。

「…あー、どうする?イツキ?」
「…村田さん、だっけ。…あんた…」

名前を確認するのと同時に、イツキは俺の胸ん中に倒れ込んできた。



「とりあえず…、ちょっとだけ…優しくしてくれないかなぁ…
オレ、もう、泣きそうなんだよね…」

そう言ってイツキは、白くて細い指で、俺の腕をきゅっと掴む。



きゅっと掴まれたのは、多分、腕だけじゃ無かった。


posted by 白黒ぼたん at 00:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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