ひなびた温泉街の旅館では、どこも宿泊を断られてしまった。
確かに、まだ少年の面影を残す未成年に…しかも青白い顔をして今にも倒れそうなイツキでは、それも仕方無かった。
仕方なくまた駅前に戻ると、ベンチに座り、ぼんやりとあたりを見る。
時々お腹がキリキリと痛むけど、さっきほどの酷さではない。
「…ゆっくり寝たいだけなのにな…。…誰か…たらし込んでホテルにでも行くか…。あー…でもそれじゃあ一発ヤらせないと駄目だもんな…」
そんな事を独りごちながら、盛大な溜息を付いた。
ふと通りの向かいを見るとこれまた寂れた定食屋があって、そこから1人の女が出てくる。
それが、つかつかとこっちに向かって歩いて来たかと思うと、イツキに声を掛けた。
「あれー、君、さっきのー。同じ駅で降りてたんだー?」
年の頃は20代後半と言ったところか…。酷く不細工ではないが、素晴らしく可愛いわけでもなく。まあ、普通の女。
ややぽっちゃりとした体型で、今どきの若い女の服装とは少し外れていて、どこか垢抜けない感じがした。
「もう大丈夫なの?何してるの?こんな所で?」
「…いや。…泊まるとこ、探してて…」
「へー、観光?どっかいいとこ、あったー?」
「いや。…1人だとなかなか…泊めてくれなくて…」
「そっかー。そうだよねー。じゃあ、一緒に泊まろうか?」
「……は?」
あまりに軽い乗りで誘われるので、さすがのイツキも一瞬とまどってしまった。
こいつ、頭がおかしいんだろうか…と、いぶかしげに女を見る。
当の女はそんな視線にお構いなく、ポケットから観光案内のチラシをとると、近くの旅館をチェックしはじめていた。
「ああ、ここがいい。大きな露天風呂があるって。行こ!」
半ば強引に押し切られる形で、気が付いた時にはイツキは、見知らぬ女と旅館の一室にいた。
2009年04月06日
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