2009年05月15日
佐野っちとラーメン屋
カーテンの隙間から入る日差しで目が覚める。
この日の傾きは、もう、昼過ぎかも知れない。
枕元に置いてあったケータイを取って、一通りメールをチェックしてから
俺はもそもそ、ベッドから抜け出して、熱いシャワーを浴びる。
濡れた頭にバスタオルだけ掛けて、冷蔵庫を覗き込む。
食べるものは何も入っていないし、飲み物も…水とビールだけで
どっちにしようか少し迷って、ミネラルウォーターのボトルを取る。
ビールは…夕べ…飲みすぎちゃったから。
リビングのソファに座って、テレビを見ていたら、佐野っちから電話があった。
近くまで来ているから、一緒にメシでも食おうって。
俺は急いで着替えて、部屋を出る。
マンションの下には、もう佐野っちの、黄色いスカイラインが止まっていた。
「なんかさー、社長とイツキ…揉めてそーだから…心配してたんだぜ?」
「揉めてなんかないよ。放っておかれただけだよ」
「ああ、あれな。聞いた?社長、留置所に一週間いたらしいぜ? 西崎のオヤジさんも大忙しでよ。今回はそれくらいで済んだみたいだけど…」
「……ふぅん」
行きつけのラーメン屋で味噌ラーメンをすすりながら、ここしばらくの近状報告をする。
マサヤは表向きは「社長」だけど、取り扱う品は正規のルートから外れた物や土地や、人だったり。
はっきりと「暴力団」と名乗っている西崎を部下に置き、その西崎以上にあざとい仕事をしていた。
ただのヤクザじゃん…と思うけど、その実、本当のところはどうなのか…俺にも解らないでいた。
そのヤクザに頭を下げて、金を工面して貰って、借金まみれの家を助けて貰った俺もどうかと思うけど。
二千万とも三千万ともつかない金額のために、俺はマサヤの扱う、商品の一つになったんだけど。
「…キ、なあ、イツキ?」
「…あ、うん?何、佐野っち」
「この後さ、どっか行こうぜ。遊びに行って…俺んち、来いよ」
「佐野っちん家には…みさ子ちゃん、いるじゃん」
「バカ。俺、もう、もさ子とは別れたんだって!」
「…ふぅん」
やけにムキになる佐野っちを見ながら、最後の一枚のチャーシューを食べる。
佐野っちは、好き。
俺も、佐野っちの彼女だったら良かったのに。
「俺、これから仕事なんだ。6時に新宿。佐野っち、送ってよ」
「…あ、そ…、そう…、なんだ…」
「仕事」と言われたら、佐野っちもそれ以上、何も言うことは出来なかった。
それからは通夜の席みたく静かに、残りのラーメンの汁をズルズルとすすった。
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