ホテルの名前と時間が書かれただけの短いメールで、突然の仕事を言い渡されるのは良くある事だったが
それでも、その日のメールは、イツキも多少考えざるを得なかった。
『グランドシャイン熊本、18時』
聞き覚えの無いホテル名。黒川が九州に行っている今、熊本と言えば、あの熊本なのだろうが…あまりに突飛過ぎて、イツキは慌てて黒川に電話を掛けた。
「…マサヤ?あのメール、何?」
「チケットは木崎に手配させた。15時の便だ。羽田まで送らせる。熊本空港には一ノ宮を行かせる」
口早にそれだけ告げられ、すぐに電話は切られてしまった。
どうやら本当に今から出掛けなくてはいけないらしくて、イツキは時計の針を見る。
12時を回ったあたり。これからシャワーを浴びて、着替えて…と、頭の中で予定を組み立てるのだが、慌てるばかりで上手に事が進まない。
そうこうしている内に木崎が迎えに来て、イツキは濡らした髪を乾かす間もなく部屋を飛び出した。
「急だな。いつも、こうなのか?」
「…さすがに熊本って言うのは…俺も初めてだけど…」
「俺も一緒に行ってやれればいいが…大丈夫か?」
「飛行機くらい乗れるよ。多分」
手渡されたチケットを持って、言われるまま手続きをしゲートをくぐる。
正直、心細さはあったのだが、そんなものに気を取られるほど時間の余裕が無かった。
なぜ、九州なのか。熊本なのか。それを考える間も無かった事は、イツキにとって少しの幸いだった。
時間通りに飛行機は到着し、迎えに来ていた一ノ宮ともすぐに落ち合うことが出来た。
タクシーに乗り一ノ宮がホテルの名を告げると、やっとイツキは安堵の溜息を洩らす。
「大変だったでしょう、イツキ君」
「もう、有り得ないよ。何なの?何があるの?」
「……小野寺会長のご意向なんですよ。…私も…、どうかと思うんですが…」
「小野寺会長?誰?」
「…イツキ君、知らないんですか?」
さも意外そうに一ノ宮はイツキを見遣った。
その視線にはいつも以上に、イツキに対する同情の色が見えた。
(超短編のくせに、まさかの連載
