2010年07月15日

迷い猫イツキ・1





名前も知らない寂れた駅のホームにイツキはいた。
とにかくその場から逃げ出したくて、目の前の電車に飛び乗って、乗り継ぎ、乗り継ぎ
真夜中、電車が終着駅にたどり着く頃には、そこはもうすっかり見慣れない風景で
イツキは泣き腫らした顔を隠すように、膝を抱えてベンチに座った。

暫くすると、その様子に気が付いた駅員が声を掛ける。
こんな時間に子供が1人では、どう考えてもおかしいだろう。
警察に通報でもされては厄介だと、イツキはそこでも逃げるように立ち去り
駅前の小さな商店街に姿を消した。
 

いつも着ている黒いスーツのポケットには
携帯と、数枚の一万円札。イツキは財布すら持っていなかった。


地方の小さな町とは言え、そこそこの店は並び
終夜営業のコンビニもあった。
イツキはとりあえずそこに入ったが、店内にいたヤンキー風の若者の視線が嫌で
急いで、菓子パンとペットボトルのジュースだけ買うと、店の外に出る。
それからまた少し歩いて、スナックが建ち並ぶ通りを抜けて、公園を見つけると
そこのベンチに座り、もそもそとパンを食べ始めた。


マンションの部屋を出てから、まだ、数日しか経っていないのに
もうそれは、遠い昔のような気がした。
もう自分には戻る場所も、待つ人もいないのだと思うと
喉の奥がぐっと詰まり、頭の中が軋むように痛んだ。


枯れ果てたかと思った涙が一粒、こぼれ落ちた。





posted by 白黒ぼたん at 23:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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