2013年07月08日

麻痺







イツキは部屋で一人、リビングのソファの前にぺたりと座り、教科書と、梶原のノートを開く。
テストも残り、一日。
今更勉強を始めたところで…ここ数年の空白は埋めようがないけれど、それでも、単語の1つでも覚えれば、点数が一つでも上がるかも知れない。
目に見えて解る結果というのが、なんだか嬉しくて、イツキはノートを何度も読み返し、そこに書かれている言葉を、白い紙に書き写した。

切りの良い所でイツキはペンを置き、ふうと息を付き、背中のソファによじ登る。
休憩とばかりにごろりと横になり、軽く伸びをして、目を閉じる。


「……俺、すごい…、頑張ってるかも……」


と、一人で呟いては、それが可笑しくてくすくすと笑った。





『イツキ、勉強、偉いな。ゆっくりデートは、その後だな』

ふと、ケータイを開き、清水からのメールを読み返す。
優しい清水は、メールでも優しい。
その後には、黒川からのメールも読み返す。

『木曜日。寿司屋に連れて行ってやるから事務所に来い』

黒川の文章は素っ気ないものだったが、それでも約束は覚えていたようだ。
それが、嬉しい。


「…とりあえず明日は…マサヤかな…。ヤバい…、俺…、2人とも…好きかも…」

そんな呑気な事を言って、また、くすくすと笑った。




小さな幸福と、下手な自信が、イツキの感覚を麻痺させていた。
自分は何でも出来て、この先の未来さえ、上手く切り開けるのではないかと、錯覚していた。


清水の事も、黒川の事も、このまま何事も無く過ぎる訳はないのに。




posted by 白黒ぼたん at 00:16 | TrackBack(0) | 日記
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